太極拳の言葉

太極拳を修練する上で肝要な概念が、練習の中で常用語や慣用句として通用されています。以下その内容を解説しました。

・鬆腰鬆跨(そんやおそんくわ)
「鬆」はゆるむこと、リラックスすることを意味します。現代中国語では「放鬆(ふぁんそん)」ともいいます。従って「鬆腰」は「腰をリラックスさせること」です。ただし、中国語の「腰」は日本語の「こし」とは場所が違い、骨盤の上、おへそを中心とする帯脈のことです。そこをリラックスさせることで上半身の軸を滞りなく回転させることができます。「跨」は股関節のことです。従って「鬆腰鬆跨」は帯脈と股関節をリラックスさせて、軸の回転や歩法(ほほう)=進、退、顧、眄、定の五つの足の運び方)をスムーズに行うことを指します。太極拳技法の基本であり、修練の基本です。

・心静体鬆(しんせいたいそん)
太極拳の基本的要求を表す常用語。「心静」とは、心が落ち着いている様を、「体鬆」とは、身体がリラックスしている様を示します。心の中は終始安定状態を保ち、全身を自然で力まない状態に保つことです。太極拳が要求する「鬆(そん)」とは、力なく弛緩することではなく、筋肉と関節をリラックスした状態にすることです。

・用意不用力(よういふようりき)
「意を用いて力を用いず」の意味で、太極拳をするときには、気持ちを落ち着けると同時に、全身をリラックスして余分な力を使わない、気持ちを集中して、意識で動きを導く、意を用いて意がとぎれず、動作もこれに従いとぎれないようにすることです。

・立身中正(りっしんちゅうせい)
身体の姿勢についての要求を表した常用語。身体を上下に垂直に保つようにし、あまり傾いたり偏ったりねじれたりしないことです。人の脊柱は緩やかなS字状を描いており、「虚領頂勁(きょれいちょうけい)」「含胸抜背(がんきょうばっぱい)」「尾閭正中(びろせいちゅう)」等によって、バランスを保ちながら脊柱を自然に垂直に保つ意識を持つことです。

・中正安舒(ちゅうせいあんじょ)
同じく姿勢と気持ちのあり方を示した常用語。「立身中正安舒(武禹襄『十三勢行功要解(十三勢行功心解とも)』)」と続き、姿勢が常に偏りなく伸びやかで心穏やかな状態で立つことを示します。

・虚領頂勁(きょれいちょうけい)
頭と首についての要求を表した常用語。頸部の緊張を避け(虚領)、頭部は百会(頭蓋骨頂点付近のツボ)から吊り下げられるように自然に持ち上げる(頂勁、頂懸とも)こと。頭部と頸部の動作は、体の位置と方向の変化に伴い、協調一致させます。顎を引き気味にし、表情は自然で、口も自然に閉じます。視線は平視(水平に遠くを見る)が基本で、身体の動きにつれ、前方に注ぎます。

・沈肩墜肘(ちんけんついちゅう)
肩と肘の関係についての要求を表した常用語。肩関節を緩めて沈めると同時に、肘も自然に緩めて落とし、腕を前に出すときは、肩に力を入れず肘が下を向くようにすることです。肘を落とさないと肩が上がりやすく、肩を沈めないと肘が横に張って落ちないのです。

・含胸抜背(がんきょうばっぱい)
胸と背中についての要求を表した常用語。胸と背中をともにゆったりさせ、自然に伸びやかに広く保つことです。含胸は胸骨を無理をせず自然に少し後ろに引くようにして、両腕の囲む範囲を広げるようにします。抜背は脊柱をまっすぐに伸ばし、鬆腰、沈肩と協調させ、虚領頂勁を維持することです。

・尾閭正中(びろせいちゅう)
下半身と上半身のバランスについての要求を表した常用語。尻を引っ込め(尾てい骨を下向きに骨盤内に収める、収臀や下腰とも言う)、背骨を上から下まで自然に垂直に立てることにより、脊柱が身体の軸となること、しっかりとした下半身にまっすぐ上半身が載ることです。気を全身にまんべんなく廻らすのに必要な「立身中正」を形成するのに必須の姿勢です。

・柔緩均一(じゅうかんきんいつ)
動作の特徴を表した常用語。柔らかく穏やかでむらがないことです。運勁(勁力を発揮すること)は力まず、綿々として耐えることなく滞らず、速度は均一であることを示します。

・連貫円活(れんかんえんかつ)
動作の特徴を表した常用語。連貫とは、各々の動作が途切れずつながっていくこと、円活とは、動作が機敏で自然に順序よくつながることです。手の動き、下肢の動きなど、自然な湾曲状態を保ち、広がり伸びきったようでもその中に曲線を求めます。

・虚実分明(きょじつぶんめい)
動作の特徴を表した常用語。緊張と弛緩を区別し、動作の虚実をはっきりさせることです。体重を支えている足が「実」となり、補助している足あるいは移動している足を「虚」とします。また動作の主要内容を表現している手を「実」とし、それを補助し呼応していく手・腕を「虚」とします。あるいは、動作が定式に至るのを「実」とし、動作が変転する過程を「虚」と捉えることもできます。各々の動作は、対立しながら相互に依存する力が作用する中で、協調しながら行われます。「虚」は「空(から)」ではありません。

・一動全動(いちどうぜんどう)
動作の特徴を表した常用語。身体の一部が動き出せば、全身各部で動かないところはないことを表します。勁力は、足から脚部そして腰に伝わり、腰が主宰して手指に伝わって(「其根在脚、発於腿、主宰於腰、形於手指」武禹襄『太極拳論(十三勢説略)』より)全身が定まります。それを実現するために、上下肢と胴体部の調和、すなわち一つの動作と次の動作との密接な関係が外部協調となり、意識・呼吸・気の巡り・動作間の調和が内部協調となります。

・上下相随(じょうげそうずい)
動作の協調・バランスを表した常用語。下半身と上半身、足の動きと手の動き、体幹の動きが協調連動していることです。いずれの技を用いるときも、手、足、腰が密接に連絡して作用するようにします。