本項目は、日本武術太極拳連盟による「武術太極拳とは」に書かれている内容をもとに、一部を抜粋・要約・改変したものです。
○歴史
「太極拳」は武術の流派のひとつですが、太極拳そのものの起源は明代末、清代初(1640年代)と考えられ、18世紀中頃の著名な武術家である王宗岳の著した『太極拳論』により、太極拳の名称が定着したと言われています。しかし、太極拳の運動の哲理は、「老子」、「荘子」、「孔子」、「孫子」などの春秋戦国時代(紀元前300~600年頃)の思想の影響を受けています。「太極」とは、天地万物が生成する以前の状態から、万物が生成・発展・変化するきっかけを作るものと考えられ、さらに「太極」から「陰陽」が生まれる、とされています。(「太極者、無極而生、動静之機、陰陽之母也。」王宗岳『太極拳論』より)
現在「陳式」「楊式」「呉式」「孫式」「武式」などの伝統拳各流派が知られ、最近では「和式」や台湾で発展した「鄭派」も加わって世界に広がっています。それぞれの流派には独特の練習方法と拳式や套路が存在しますが、さらに、中華人民共和国成立後に国民の体位向上と健康保持増進のために、各派の伝統拳を基礎として、国家によって統一された拳式(型)が制定されました(制定拳)。簡化24式太極拳、88式太極拳、48式太極拳、42式総合太極拳、32式太極剣、42式太極剣、推手対練規定套路等々です。これらの拳式は、中国だけでなく、アジアや世界に広まっています。
○運動の特徴:
太極拳は、力を使わず、柔らかく動くために、老若男女だれでもが行うことができて、練習する人に均しく、心身の健康をもたらすと考えられます。太極拳の練習法は、「套路(とうろ)」(一人で型の修練を繰り返すもの)と、「推手(すいしゅ)」(相手と組んで勁力を受け渡す修練)、の二通りがあります。また、呼吸を整え、体をゆるめ、意識を集中するために「站樁功(たんとうこう=立禅(りつぜん)とも言う)」(ただ「立つ」練習=色々な立ち方がある)などの練習も行います。健康法として、大部分の人は主に「套路」を練習します。熟練者は、徐々に「推手(すいしゅ)」の練習も行います。
「套路」では、
1.姿勢をまっすぐに保ち、ゆっくりと伸びやかに動きます。
2.心を落ち着けてリラックスし、身体の筋肉や関節を緊張させず、柔らかく、軽く、ゆるめて動かします。
3.動作の前に意識が先行します=「意識で動作を導く」(「用意不用力」)。
4.呼吸は動作に合わせて、ゆっくりと自然に行います。
5.無理のない全身運動で、練習中も終わったあとも、気持ちが良いと感じられます。
「推手」では、
相手の足裏から発する勁力を感じ、また自分からも発して相手に伝える、巧妙な技を練習します。「套路」のように型に気を取られるのではなく、自分と対手双方に、より高度な意識集中が求められ、練習をする二人が、互いに柔らかい力のバランスを感じとり合いながら行うので、危険度が少なく、より深い興味とリラックス(放鬆=ふぁんそん)が得られ、太極拳自体に対する理解も深まり、健康効果も高まります。
○太極拳以外の武術
また、中国武術の基礎種目であるカンフーや「長拳(ちょうけん)」などは、速い速度の攻防動作、蹴り技、バランス動作などを練習し、青少年の骨格、筋肉の発達、柔軟性、持久力の強化など、身体能力の
向上を図ることができます。さらに、武術を学ぶ者の基本として、礼儀、「武徳」の情操教育の効果を期待することができます。カンフーや「長拳」は全国的に普及がすすみ、青少年(小・中学生、高校生)の愛好者が増えています。その他、八極拳、形意拳、八卦掌、蟷螂拳、南拳等の代表的な中国武術を同時に学ぶ人も沢山居ます。
○社会的意義と生涯スポーツ:
太極拳は年齢を問わず楽しむことができます。一部には、ジュニアカンフー教室と太極拳教室を合併した「親子教室」なども行われており、多世代交流型スポーツと言えます。健康効果が著しく、年齢を問わないスポーツであることから、地域での普及がすすみ、地方行政などでも予防医療の観点から、太極拳の普及に積極的な自治体が増えてきました。太極拳は文字通り、愛好者が生涯を通じて練習を続けることができる「生涯スポーツ」ですが、もう一方で、「競技スポーツ」としても普及がすすんできています。まず高齢者向けには、全国健康福祉祭(ねんりんピック)でスポーツ交流大会の開催種目として実施されていますし、一方、太極拳や長拳などの競技(型演武の試合=採点競技)が、全日本選手権大会、アジア選手権、世界選手権大会などで行われています(日本武術太極拳連盟のホームページをご参照ください)。